薬歴を見ていて、「あれ、この薬とこの病名の組み合わせ、合ってる?」と手が止まったことはありませんか。

アイピーディ(スプラタストトシル酸塩)を、間質性膀胱炎の患者さんの薬歴で見かけたときが、まさにそれでした。

アイピーディの本来の適応は、気管支喘息・アトピー性皮膚炎・アレルギー性鼻炎です。膀胱炎とは、パッと見て結びつきません。ですが実際には、間質性膀胱炎の治療の一つとして、この薬が処方されているケースが少なからずあります。

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なぜ、膀胱炎にアイピーディなのか

間質性膀胱炎は、保険診療上明確に確立された内服治療がまだ少ない疾患です。膀胱水圧拡張術以外では、三環系抗うつ薬・抗ヒスタミン薬・抗アレルギー薬・経口ステロイドなど、本来の適応から外れた形で使われている薬がいくつもあります。アイピーディも、その一つという位置づけです。

アイピーディの成分であるスプラタストトシル酸塩は、Th2サイトカイン(IL-4・IL-5など)の産生を選択的に阻害する作用を持っています。この作用により、好酸球の組織浸潤やIgE抗体産生が抑えられることが分かっています。

間質性膀胱炎の一部には、アレルギー性の炎症が関与しているのではないかという仮説があり、この機序に着目して使われるようになった、というのが背景です。

実は、治験では証明されなかった効果

ここが、この薬のちょっと引っかかるところです。

開発元の大鵬薬品は、実際に間質性膀胱炎への適応追加を目指して、国内第III相試験を実施しました。しかし、プラセボ群に対する明確な優越性を証明できず、この適応での開発は中止されています。

つまり、統計的にはっきりとした効果が示せなかった薬が、それでも今も現場で処方され続けている、という状態です。

理由はシンプルで、治験で有意差が出なかったとしても、実際に症状が改善したという患者さんが一定数いるからです。エビデンスと臨床実感の間にギャップがあるまま、経験的に使われ続けている薬、というのが実情に近い表現だと思います。

現場で、どう説明しているか

ここから先は、現場での実務的な話です。

患者さんに「なぜこの薬が処方されているんですか」と聞かれたとき、私は次のような流れで説明することが多いです。

まず、「本来は別の病気のお薬なんです」と正直に伝えるところから始めます。ここを濁すと、後で不信感につながりやすいと感じています。

次に、「アレルギーを抑える働きが、膀胱の炎症にも効くのではと考えられている」と、機序をかみ砕いて伝えます。専門用語(Th2サイトカインなど)はここでは出さず、「炎症を抑える働き」くらいの表現に留めています。

最後に、「はっきりした効果が証明された薬ではないけれど、実際に症状が楽になる方がいることも分かっている」と、正直に限界も伝えます。過剰な期待も、過剰な不安も持たせないバランスを意識しています。

このとき大事にしているのは、「エビデンスがないから怪しい薬」という伝え方を絶対にしないことです。医師が処方した判断には理由があり、その理由を薬剤師の立場から補足する、というスタンスを崩さないようにしています。

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まとめ

  • アイピーディの本来の適応は気管支喘息・アトピー性皮膚炎・アレルギー性鼻炎
  • 間質性膀胱炎への使用は適応外。Th2サイトカイン阻害という機序に着目して経験的に使われている
  • 開発元による適応追加を目指した治験では、プラセボに対する優越性を証明できず開発中止
  • それでも症状改善の実感がある患者さんが一定数いるため、現在も処方され続けている
  • 患者さんへの説明では、「本来別の病気の薬であること」「機序への期待」「効果の証明はされていないこと」の3点を、正直に順序立てて伝えるのがポイント

薬歴で見慣れない組み合わせに出会ったとき、こうした背景を知っているかどうかで、患者さんへの説明の厚みが変わってきます。

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ABOUT ME
薬剤師のポン
薬局薬剤師14年目。 薬学部卒業後、大手チェーン薬局に就職。大病院の門前薬局の前で働き、あらゆる科の調剤を担当する。一通りの仕事がわかってきてから、「自分の地元だったらもっといい仕事ができる」と考え、自分の地元で働きたいと強く願うようになり、地元の調剤薬局に転職。現在は地域密着薬剤師として地元の中小薬局で勤務中。